知人が島を舞台にくりなす人間模様を縦軸に、恋模様を横軸に小説を紡ぎました。
「瀬戸の島から」という名のついたブログから発信するのに、「ふさわしい」と思えます。
短編集なので随時、掲載していこうと思います。
立ち寄ってお読みいただければ、「ますます小豆島が好きになっていただけるのでは」という期待もあります。
最後に、お断りをしておきます。m(_ _)m
決して私の作品ではありません。
それでは連載第1回をお届けします。
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小豆島恋叙情
鮠沢 満 作

あなたが失ったものを取り戻したいのなら、ここにいらっしゃい。
あなたが心の奥に大切にしまっておきたいものをつくりたいのなら、ここにいらっしゃい。
普段なにげなく接している人を、もっと大切に思えるようになりたいのなら、ここにいらっしゃい。
瀬戸の暖流に身を任せ、輝く太陽とそよぐ風に心をときめかせながら両手を大きく差し出して、
あなたが好き、と言えばそれが叶うのです。
そう、ここは天使が舞い降りる島

第一話 天使の道

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ここは天空から天使が舞い降りる島
潮が引くにつれて、白い砂浜と二つの島の間に砂州がしずしずと現れた。
砂州は悠久の時間の流れに後押しされるように背を広げ、
やがて帆船の巨大な帆のような緩やかなカーブを描いて
小さな砂丘へと姿を変えていった。
朝陽が洋上の向こうに浮かび出た山の稜線から、
ぽつり最初の光の滴を落とした。
やがて待ちきれなくなった真っ赤な太陽が、
オレンジ色の衣をなびかせて山の上に躍り出た。
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眠けを波の縁にほんのり残した朝海は、鏡の表面のように穏やかで、
そのなまめかしいほどの若肌に一本深紅の帯が垂れた。
その真っ直ぐな帯は、静寂の壺と化した湾に抱かれるようにゆらりゆらりたゆたっていたが、
やがて押し寄せてきた波の一団に崩れ、無数の深紅の断片となって散った。
あわてて離れた手を手繰り寄せ元の一本の帯になろうとしたが、遅かった。
離ればなれになった輝きの断片は、夥しい数の布になってゆるゆる浮かんでいた。
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幸一は弁天島と中余島を繋ぐ砂州の上で、両手を腰に置いたままその光景を、
何かが憑依したように茫然と見つめていた。幸一の頬に一筋光るものがあった。
にわかに海からひんやりとした潮風が立ちのぼり、
その光るものをまるでこそげ落とすようにかすめていった。
そのとき幸一は、目に見えない小さい棘にひっ掻かれたような痛みを感じた。
「園子」
幸一は小さく呟いて瞼を閉じた。
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あのとき幸一のそばには、園子が寄り添うように立っていた。
園子の腕が幸一の腕にぐっと絡みつき、
どんなことがあっても離れそうにないくらいしっかり手を取り合っていた。
「ここは天使の舞い降りるところなんだ」
幸一は自慢そうに言った。
「天使?」
「そう。あの可愛らしい翼を持つ天使」
「じゃあ私たち二人を祝福してくれるのね」
 幸一は園子にプロポーズし、そして園子はその申し出を承諾したばかりだった。
「この弁天島、中余島、大余島とは引き潮のとき、砂州でつながる」
「いつもは離れているのね」
「そう。一日に二回手を取り合うことができる」
「素敵ね」
 園子は顔を幸一の胸に埋めた。
 長い黒髪が潮風になびいて、美しいメロディーを奏でそうだった。
「離れていても必ず手を取り合うことができる」
「幸せをつなぐ島」
「だから今僕たちが立っているここは、エンジェルロードと呼ばれている」
「やがてウェディングロードへとつながるのね」
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あれから一年の歳月が流れた。
今日、幸一のそばに園子はいない。
幸一は巻き貝の中を流れる風のような静かな声で言った。
「園子。ここは天使が舞い降りる島なんだ。
 覚えているだろう。
そして一日に二回手を取り合うことができる。
だから僕は毎日こうしてここに来るんだ」

王子東港から一隻の漁船が、
長い曳航の軌跡を残して出港していく。
長い深紅の帯が真っ二つに断ち切られ、
弱々しく漂っていた。