
https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/np/search/simple/?lang=0&mode=0&opkey=R174070762695508&start=1&codeno=&req=back 」です。ここでは戦前からの新聞記事がアーカイブスでみられ、私がよく御世話になっている所です。「香川県の麦稈真田」で検索すると、以下のような記事が出てきます。まず、第一次世界大戦中の好景気に沸く麦稈真田の様子を見ておきましょう。

香川県の農業は米麦作が主体で、剰余労力が多いので農家副業が欠かせない。香川県の麦稈真田の製造は明治15(1882)年に大阪の商人原田某氏が小豆郡草壁村に、麦稈購入にやってきて真田の製法を村民に伝えたことに始まるとされる。その後、麦作に適した気候風土もあって、麦稈の光沢が美しく、品質優良と認められ世界に販路を広げた。こうして農家副業として近年は急成長を遂げてきた。中でも大正元(1912)年度は、生産額が237万円に達した。①これは、生産額1位の岡山県に次いで、全国第2位になる。ところが流行の変化で麻真田帽や紙製帽が欧米の流行の中心となると、麦稈真田の需用は急減退し、市価も低落した。そのため②昨年度(1915年)の香川県の生産額は36万円まで落ち込んだ。しかし、③今春以来再び英米の需用が増えて、初夏以来は注文が頻々と舞い込んでいる。そのため業者は目下の所は麦稈真田の製造に忙殺され需用に追いつかないほどの未曾有の活況を呈している。香川県麦稈真田同業組合の小林氏の話によると、麦稈真田の価格は高騰しており、昨年1反9銭だったのが本年は15銭となっているという。特に合九平22粍巾のものは昨年は一反19銭だったのが本年は43銭と、倍以上に高騰して、需用に追いつかない状況にあるという。このような時期には、粗製濫造に走る業者も出てくるので、当局側はそれへの対応に追われている。また香川県は、岡山や広島県に麦稈真田の原料を供給している。昨年は1貫目22銭だったのが、今は34銭で取引されている。香川県にとって将来有望な種類は合三平種である。(中略)
合三平四五の巾で一反の売価22銭に対して、コストは組賃9銭、原料7銭、仕立・雑費2銭を除くと4銭の利益となる。目下香川県の麦稈真田界は黄金時代を謳歌している。九月中に同業組合は証紙検印を行うようにして粗製濫造を防止しようとしている。今年の海外輸出反数は、110万反にのぼる予想がでている。
香川県では農家の副業して麦稈真田が根付くことによって貧しかった農村は次第に富裕となってきた。中流以下の農家でも貯金が出来る者が少なからず現れている。もともと香川県は空気が乾燥し、土壌が砂質なので麦稈真田の材料となる麦類栽培に適していた。その上に県民が手工に長ずるという特性も重なって発展してきた。①大正元(1916)年度の産額は1072反・生産額は237万円で、本県の生産品の首位を占めるまでになった。以上を要約しておくと
ところが1917年度になって関東地方で麻真田が作られ海外に輸出されるようになった。麻真田は軽いので婦人帽子に使われ人気が出た。②そのため麦稈真田は婦人用帽子には使われなくなり、男子帽のみの原料となったために需用は低下し、価格も低落した。その結果、1917年の生産高は641反 売上額は115円と、前年度の半分まで落ち込んだ。本年度も麻真田が人気なので、
麦稈真田の回復の見込みはなく、しばらくはこの苦境がつづくことが予想される。(後略)
①1916年には、麦稈真田の生産額は香川県の農業生産品の中で首位となった
②1917年度以後、麻真田に押されて生産額が半減し、麦稈真田は不況期に入った。
次の記事は、ベルサイユ講話条約が結ばれた翌年の1920年の大阪朝日新聞のものです。
「香川県の麦稈真田 頗る好況」大阪朝日新聞 大正9(1920)年1月16日
「香川県の麦稈真田 頗る好況」(神戸大学新聞記事文庫 麦稈製造業第1巻 記事番号97)意訳変換しておくと
香川県下では米作に次ぐ農家の収入源となっているのが麦稈真田である。①第一次世界大戦のために、一時は輸出が途絶え、さらに船便不足で販売が伸び悩んでいたが、②休戦成立以後は次第に好転し、7月以後は価格も記録的な高騰を見せ、収益も順調に伸びている。「四菱」などは一斑90銭内外となって、織賃も上がって一日で初心者でも1円50銭、熟練者になると3円内外の収入となっている。③香川県下の紡績、製糸、燐寸などの各工場の女工たちの中には、それまでの工場を辞めて自宅に帰って賃編に従事する者も現れる始末。そのため工場も女工の賃金を三割から五割上げる対応をとっているが、それでも応募者が現れないような状況が続いている。以上を要約しておくと
麦稈真田同業組合調査によると昨年大正8年1月から11月末までの生産高は約2694反で、販売額は876万円に達している。(中略)
統計によれば、前6年の合計生産額が、昨年一年間に及ばない。しかも昨年は11ヶ月間の統計なので、十二月分も合わせれば総額は売上額は千万円を越えたかもしれない。これについて同組合員の談話によると④戦前は、輸出運賃単四菱一反で2銭だったのが、大戦開始以後は28銭に高騰したため輸出が途絶え、大きな打撃を受けた。それが平和が回復され船腹確保できるようになって、運賃も低下して、戦前の二銭に戻ってきたので輸出も回復したとみている。目下の所、単四菱一反極上品が90銭、最下等70銭で推移しているが、好況に大変化がない限り、この価格を維持でき、多数の県民福利を増進できると考えている。ちなみに香川県の麦稈真田組合会員数は、製造業者57951人 販売業者208人 仲買業36人であるが、この好況に伴い製造、販売、仲買人ともに大幅に増加しているという。
①第一次大戦中には麦稈真田の輸出は途絶えた
②ベルサイユ講話条約締結後、輸出は再開し価格も急騰している
③そのため香川県の女工たちにの中には、勤めていた工場をやめて麦稈真田を織る者もあらわれている
④麦稈真田の価格は高止まり傾向にあり、業界の将来は明るい。
ここでは第一次大戦時の麦稈真田の輸出急減の要因を「船賃の高騰」と指摘しているのがいままでにない所です。ところが、その4年後には自体は急転しています。
輸出用の麦稈真田市場は新稈の出廻りを眼先に控えているのに、亜米利加からの註文も手控え状態で取引は極めて閑散としている。岡山・香川の生産地情報によると備後地方は刈取期の本月下旬に降雨が多かったために、品質は極めて低下しているという。それに加えて、前年も品底気味であったので、本来ならば優良品は相当高値になるはずであるが、今後の天候次第である。香川県地方では、岡山に比べて収穫期が遅いため降雨の被害は少い見込みで、昨年より良好とされる。以上から麦稈原料の市価も大した変化はないと見られる
1920年の好景気は、ここでは見られず市場は閑散としていると報じられています。4年の間になにがあったのでしょうか。いまの私にはよく分かりません。時代を進めていきます。

そして大正15(1926)年 8月25日 神戸新日報の記事です。
意訳変換しておくと
① 麦稈真田の前途については、以前にも報告したように明るい兆しが見られない。同業組合や産地でもさまざまな改善策を講じ、品位向上に努めているが、生産農家が副業であるのがネックとなっていて改善は進んでいないのが現状のようだ。現在は主産地の岡山、広島、香川が盂蘭盆であり、製産品が市場に出廻らず品薄になる時期なので価格上昇が見られる時期である。ところが②海外からの注文薄のため相場は取引数も少なく、安値定着で、同業者は全く閉口している。一方相場の安値定着は、生産者に大きな打撃を与えていると思われるかもしれない。けれども副業としている農民たちは、案外のんきな対応ぶりである。(中略)③香川県などでは、麦稈真田を副業そしていた農家の大半が他の副業に転じているようだ。また同業者も対策に相当努力を払っているが、何分にも相場が安いため手の打ちようが無い状態だという。(中略)粗製品を売って利益を得ることは得策のように思えるかもしれないが、それは信用を失いて損失を招くことになる。今は輸出業者が団結一致し粗製品の濫造を防止することが必要であろうと同業者は語っていた」
①1926年になっても、麦稈真田業界の不況が続いていること
②海外からの注文がなく安値が続き、農家の生産意欲が停滞していること
③香川県では麦稈真田から、叺(かます)などの副業への転進が進んでいること
ここからは1926年段階で、香川の麦稈真田は衰退していたことがうかがえます。そして3年後には世界恐慌が襲ってきます。麦稈真田は、その荒波に飲み込まれていったことが予想されます。
以上から分かることは、以下の通りです
①麦稈真田は日露戦争後には衰退期を迎えていない。
②好況期と不況期を繰り返しながら第一次世界大戦直後に繁栄のピークを迎えていた
③しかし、1920年代後半になると次第に衰退し、世界恐慌でとどめをさされた
ここまで見てきて改めて知ったことは、麦稈真田が輸出商品であったことです。国内だけで使用されていたのかと思っていました。世界的な景気変動や流行によって需用が大きく動き、そのため価格変動も大きかったことが分かります。そして、戦前の香川では、生糸と並ぶ農村の重要な副業であったことを押さえておきます。
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。
参考文献
神戸大学新聞記事文庫デジタルアーカイブ 真田製造業 https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/np/search/simple/?lang=0&mode=0&opkey=R174070762695508&start=1&codeno=&req=back
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