信濃を出国する尼公と従者(信貴山縁起絵巻第三巻冒頭)
道の側には、水量ゆたかな川が流れ下っています。 『新版絵巻物による日本常民生活絵引」は、この場面を「木曾路」として次のように記します。
もと京師から東国へ行くためには二つの道すじがあり一つは東山道、他は東海道である。 木曽路は東山道に属し、美濃から木曽川の谷を経て鳥居峠を越え松本平に出るまでの間で、木曽川のつくった深い谷間を通り、きわめてけわしく、所々に桟道もつくられていた。しかし古代にはこの道が重要な交通路で、東国の牧から献上せられる望月の駒もまたこの谷を下って美濃の平野に出、近江を経て京都にいたった。
②その軒先では、嫗と翁とが笑顔で果物(桃)を鉢に盛っている。
和歌で詠まれるのは、歴史文書などで 「布施屋」と表記される、道の難所や渡し場などに設けられた公設の緊急宿泊施設である場合が多い。それは、坂上是則の
「園原やふせ屋におふる帚木のありとは見えてあはぬ君かな」(新古今集・一九九七、 古今六帖・第五・三〇一九) を淵源に、信濃の御坂の麓に設けられた園原の布施屋が詠まれるのが普通であり、「園「原の伏屋」で地名のようにも意識されていた。
さらに、「おろかにも思はましかば東路の伏屋といひし野辺に寝なまし」 (拾遺集・雑賀・一一九八・よみ人しらず)のように、それ自体で地名のように扱われる例も見られる。
A 調庸の運脚夫や都の宮殿造営に従事する役民等を宿泊させる施設(平安時代史事典)B 「行旅の窮民」救済施設説で「行基の如きも五畿内に布施屋九所を造て行旅の窮民を救済していた」(綜合日本史大系)C 奈良時代から平安時代にかけて、駅路の諸所に設けられた旅人の接待所(慈恵的旅館)の一種」(和歌森太郎編 『増訂日本歴史事典』)
A 右手の松の木B 中央の井戸汲みと洗濯C 菜園の中で青葉積み

①季節は春で、畠にはきれいに畦道が作られている。
②小袖の女が、裸足でしゃがんで菜摘みをして、曲物桶の中には摘んだ菜が見える。
③他の部分にも菜が描かれていたが緑色が剥落した
④庶民の家では畠で野菜類が自給されていて、その管理は女の仕事だった。
水汲みや洗濯、糸紡ぎなども女が担当していたようです。
次の場面には、弟の命蓮の消息を訪ねる尼子が描かれています。
②今までは乗馬の旅で沓を履いていたのが、ここでは徒歩で脚絆に草鞋になっている。
③烏帽子に蓑を着て立つのが、信濃国から同行している従者。馬ともうひとりの従者はいない。
⑤従者の蓑が膨らんでいるのは、その下に荷物を背負っているため
⑥衣類の他に、米などの荷物も背負っていたはずです。尼君の旅は、こうした従者の働きがあってこそできたことを押さえておきます。

こうしてみると、尼君の弟を訪ねての長い旅は、人々の援助によって成り立っていたことが分かります。作者は、長い旅であることを示すために、途中で出会った人々の生活まで描きました。それが庶民の仕事ぶりまでが分かる史料となります。
峠を越える山道には鹿の群が描かれています。奈良に入ったことが暗示されます。やってきたのは東大寺です。
東大寺大仏の前でぬかずく尼公(信貴山縁起絵巻第三巻)
命蓮の消息をたずねて祈るうちに、尼公は仏前でまどろみます。すると夢枕で大仏に西の方、紫雲たなびく山に命蓮がいることが告げられます。そのお告げに従って西を目指して出立していきます。
この場面では、大仏の前で複数の尼公が描かれています。これが「異時同図法」により時間の変化を表現した最初の作品になるようです。なお、ここに描かれた東大寺大仏殿は、治承4年(1180)に平重衡(しげひら)の南都焼き討ちで焼け落ちる以前の建立当初の姿を描いた唯一の史料です。道中の商家、農家、職人の家と庶民の風俗などとともに、価値が高いと研究者は評します。
信貴山は高い山ではありませんが、大和平野や河内平野から仰ぎ見ることの出来る霊山です。そして人びとが容易に登れる山に、山岳信仰の道場が開かれます。例えば、行基は生駒山に道場をひらいて生馬(いこま)山房としています。このような庶民にしたしみやすい山に庶民信仰の寺が栄えるようです。そういう目で讃岐を見てみると、丸亀平野の奥の大川山の仲寺廃寺や、髙松平野の女体山の大窪寺、三豊平野の雲辺寺なども、山岳修験者の道場として開かれたものがいくつもあります。それに弘法大師伝説や四国巡礼が接ぎ木され、近世になると四国霊場に転化・展開していきます。
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。
参考文献


















































































































































































































































































































































































































































































































